小説「金色夜叉」
金色夜叉と清琴楼
塩原の場面~
.「金色夜叉」は尾崎紅葉の代表作で、明治30年1月1日から35年5月11日まで断続しながら連載されました。単行本は、前編、中編、後編、続編、続々編(7版から新続編も含まれる)と刊行されました。
金色夜叉といえば熱海の場面が有名ですが、物語の終盤、主人公貫一は心疲れ塩原へと赴きます。
その地の「清琴楼」という湯宿に滞在中に、心中を図る若い男女を助けたことから人間らしい心を取り戻していくという重要な場面が描かれました。
清琴楼へ改名
当館は当時「佐野屋」と称していましたが、小説のモデルになったということから「清琴楼」の名前を紅葉先生のご遺族の了解を得て頂戴いたしまして今日に至ります。
小説の舞台になったお部屋は「紅葉の間」としてお泊まりの方に公開しています。
一村十二戸、温泉は五箇所に涌きて、五軒の宿あり。ここに清琴楼と呼べるは、南に方りて箒川の緩く廻れる磧に臨み、俯しては、水石のりんりんたるを弄び、仰げば西に、富士、喜十六の翠巒と対して、清風座に満ち、袖の沢を落来る流は、二十丈の絶壁に懸りて、ねりぎぬを垂れたる如き吉井滝あり。東北は山又山を重ねて、琅かんの玉簾深く夏日の畏るべきを遮りたれば、四面遊目に足りて丘壑の富を擅にし、林泉の奢を窮め、又有るまじき清福自在の別境なり。
~ 続々金色夜叉より ~